修繕工事の進め方

大規模修繕工事は、管理組合員が共同して費用を負担するものです。日常生活にも大きな影響を及ぼすため、区分所有者や居住者様が協力して行います。しかしながら、管理組合では大規模修繕工事を実施するための専門的な事項に関しての知識やノウハウが不足していることもあり、管理会社任せや施工会社任せにして、よく理解しないまま進めてしまうケースも見受けられます。専門家の支援を受けるべきところはしっかり受けつつ、管理組合として押えておくべきポイントを確認していきましょう。
Step1

大規模修繕工事のパートナー選定

建物の調査・診断を実施して、参考見積書を作成し、工事に必要となるおおよその予算を算出します。調査・診断の進め方は、以下の3通りが一般的です。

パターン1

複数の施工業者に依頼

メリット
無償なのでコストを抑えることができます
デメリット
資料の書式が各社バラバラなので、比較検討には専門知識が必要となります
パターン2

現在契約中の管理会社に依頼

メリット
複数の施工業者へ依頼するよりは公平な診断が期待できます
デメリット
管理会社またはその関係業者が、業者選定で有利になる場合があります
パターン3

第三者機関(コンサルタント等)に依頼

メリット
公正で厳格な診断が可能です
デメリット
有償のため、特別な予算が必要となり、小規模世帯では負担が大きくなります

大規模修繕工事の主体は管理組合ですが、工事を進めるためには専門的知識と判断が求められるため、課題に応じて専門家の協力、意見を求めることが重要です。

管理組合とパートナーとの役割分担

管理組合
  • 大規模修繕工事を含むマンションの維持管理
  • 検討内容に基づく組合内の合意形成
  • パートナー選定
  • 工事の進捗管理(組合員への周知を含む)
パートナー
  • 大規模修繕工事を進めるためにアドバイス
  • 工事にかかわる他の事業者等との調整・協議
  • 工事の施工

パートナーに求める条件

  • 明確な費用や報酬
  • 管理組合の運営や分譲マンションについて知識やスキルがあるか
  • マンションの大規模修繕工事に関する実績や技術力があるか
  • 管理組合としてコミュニケーションしやすい人材がいるか
Step2

建物の状態チェック

まずは調査診断により修繕工事が本当に必要か判断することが重要です。

建物調査診断の実施により劣化状況を把握する

調査結果によってはすぐに大規模修繕工事が必要ではないことがあります。
修繕工事の必要性を理解し、納得して進めることが重要です。

日常点検や法定点検の結果や長期修繕計画書を把握する

長期修繕計画において予定している工事の内容や予算、修繕積立金が不足しないか、増額の計画があるかなど把握しておくことにより、予定の無かった支出が本当に必要なものであるか、過剰な修繕ではないかなど適正な修繕を実施し、納得感や将来の安心感を得られるように計画することが重要です。

修繕計画の立案から着工までは余裕を持って準備を進める

大規模修繕工事の需要増加に対して働き方改革や労働者の不足など課題が多くあります。
発注スケジュールが短いと対応できる会社が限られ、工事費が割高となる可能性があるため、着工までのスケジュールについては焦らず、余裕を持って進めることが重要となります。

Step3

修繕内容を検討する

大規模修繕工事の工事内容は、居住者様アンケート結果や建物診断結果の内容から各工事について今行うべきか時期をずらしてもよいか検討し、その時点のマンションの状態にふさわしいものにすることが重要です。

一般的な大規模修繕で行う主な工事内容のイメージ

1回目の大規模修繕工事 2回目の大規模修繕工事 3回目の大規模修繕工事
  • 屋根防水の補修、修繕
  • 床防水の補修、修繕
  • 外壁の補修、塗替
  • 鉄部の塗装
  • 建具の点検、調整
  • 屋根防水の補修、修繕または撤去・新設
  • 床防水の補修、修繕または撤去・新設
  • 外壁の補修・塗装、除去
  • 鉄部の塗装
  • 傷んだ金物類の取替
  • 耐用年数を迎えた設備の取替

これまでの工事に加えて

  • 屋根防水の撤去、新設
  • 建具の取替
  • 給排水管の取替
  • 耐用年数を迎えた設備の取替
Step4

資金の確保

修繕工事にかける予算、資金の調達方法を決定します。参考見積書の金額と管理組合さまとして用意できる資金を比較して、資金が不足している場合には、施工範囲の縮小や仕様変更を検討します。

資金不足時に考えられる調達方法

借り入れ 住宅金融支援機構
特別積立 短期間(約1年)
工事延期 2年くらい延期してその間に積立
一時金の支払 各戸不足金額分

総会の承認

終予算案及び資金調達案についての総会承認を得る際、その後の業者選定等についても理事会に一任していただくように承認してもらうのが望ましい方法です。

Step5

施工業者の選定・発注

複数の施工業者から見積りを取り、ベストなパートナーを選定します。
施工業者検討の際は、基準を設け検討すると公正な判断がしやすくなります。また、コンサルタント(管理会社担当者または第三者機関担当者)がいる場合、事前に見積内容や必要書類の精査・施工実績等のアドバイスをいただくと施工業者検討の参考になります。

01

見積参加業者の募集

02

見積参加業者の決定

03

見積発注

04

施工業者の検討

05

施工業者の内定

06

理事会の承認・施工業者決定

Step6

住居者説明会

現場代理人から施工範囲や仕様、安全上の注意点などが説明されます。居住者様との相互理解を深めるため、質疑応答も行います。

住居者説明会

施工業者とのコミュニケーション

着工後は、居住者様と施工業者の間で緊密な連絡が大切になります。
定例会の開催や現場検査など、施工業者にまかせっきりにせず、積極的にコミュニケーションをとりましょう。

01

着工

02

仮設検査

03

下地検査

04

仕上検査

05

最終検査

Step7

共通仮設物・足場工事

共通仮設物の設置

現場事務所・作業員休憩所、資材倉庫、仮設トイレ、手洗い場、廃材コンテナを設置します。現場事務所には、机、電話、コピー機、パソコン等の備品を搬入します。

足場の設置

建物外周に鋼製の枠組足場などを設置します。足場の外周は透過性のあるメッシュシートで覆い、塗料等が外部へ飛散しないようにします。

Step8

下地補修工事(タイル面・コンクリート面)

タイル浮き補修工事

外壁タイルとコンクリート躯体面の接着が弱まり、タイル浮きが出ている箇所にエポキシ樹脂の接着剤を充填する注入工法で固定します。浮いている箇所の見落としがないか、事前に入念な打診調査を行うことが必要です。

タイル貼り替え工事

平滑な貼り替え面には、貼ったタイルが剥落しないよう、貼り替える前にコンクリート躯体面を超高圧洗浄等で目荒しします。

ひび割れ補修工事/フィラーすり込み工法・Uカットシーリング工法

躯体のひび割れには、大きく分けてコンクリート自体の収縮によってできたものと、建物の構造上の理由でできたものがあります。前者の場合は割れた箇所にセメント材等を充填して修復を行いますが、後者の場合は今後も割れが大きくなる可能性があるため、割れ部分に溝を作ってシーリング材(ゴム材)を充填するUカットシーリング工法を用いて修復します。フィラーすり込み工法については、用語集をご覧ください。

鉄筋爆裂補修工事

コンクリート内部の鉄筋が腐食によって膨張し、周辺のコンクリートを押し上げ、ひびの入った状態を鉄筋爆裂と呼びます。この場合は、まず脆弱化したコンクリート・鉄筋の錆を除去し、鉄筋に防錆剤を塗布した上で、樹脂モルタルによる埋め戻しを行います。

Step9

シーリング工事

躯体目地・サッシ廻りシーリング工事

シーリング工事 では、窓や扉の枠周辺などに充填されているゴム状のシーリング材の打ち替えを行います。塗装面やタイル面など基盤に適したシーリング材を選定することが品質管理のポイントです。

Step10

高圧洗浄工事

水を高圧で噴出させ、外壁表面に付着した汚れや藻、脆弱塗膜を除去します。外壁タイル面の酷い汚れには薬品を併用します。

Step11

塗装工事

鉄部塗装工事

鉄製部材に錆止め塗装・上塗りを行い、錆・腐食の進行を遅らせることが目的です。塗装前にサンドペーパーや工具による目荒らし(ケレン)を行うことが重要で、形状が複雑で機械工具が使えない箇所は、手工具によるケレンを入念に行います。

外壁塗装工事

建物の美観を向上させるたけでなく、躯体コンクリートを塗膜で保護し、中性化を防ぎます。工事中はバルコニーに出入りできなくなる期間が生じます。外壁塗装の上塗り材は、シリコン塗料、フッ素塗料等があり、耐候性・耐汚染性で区別されます。天井には雨水を通しにくく、内側からの湿気に対し透湿性のある塗料を使用します。

Step12

防水工事

バルコニー防水工事

防水の種類は「ウレタン塗膜防水」工法と「塩ビシートを貼り付ける」工法があります。ウレタン塗膜防水工法は安価ですが、近年では美観を考慮し、床面に塩ビシートを貼り、その他の 排水溝や立ち上がり等はウレタン塗膜防水の複合防水が多く採用されています。バルコニー内の工事は足場が必要となりますので、足場工事と共に施工することをおすすめします。

屋上・ルーフバルコニー防水工事

ルーフバルコニーとは、下階の部屋の屋根部分を利用したバルコニーのことです。屋上防水層の劣化は漏水を招くため、劣化状況や予算を考慮しながら、早期に工法・改修材料の検討を行う必要があります。主な工法には「撤去工法」「かぶせ工法」があり、防水材料によって、アスファルト防水シート防水、ウレタン防水に分類されます。写真の改質アスファルトシート防水トーチ工法を施工する際は、シートの重ね合わせ部がトーチバーナーの炙り不足により貼り付いておらず、漏水の原因となることがありますので、しっかりと貼りついているか検査が必要です。アスファルト防水層がコンクリートで保護されている既存下地の場合、「ウレタン塗膜防水通気緩衝工法」が採用されます。笠木は「ウレタン塗膜防水メッシュ補強工法」を併用します。劣化状況にもよりますが、勾配屋根には「アスファルトシングル防水かぶせ工法」を採用します。

廊下・外部階段防水工事

廊下の防水は、防水性能だけでなく、マンション共用部としてのデザインが重視されるため、配色や模様の選択肢が豊富な塩化ビニル樹脂シートを貼り付ける工法が多く採用されています。施工中は、廊下の通行にできるだけ支障が出ないように配慮することも重要なポイントです。

Step13

お引渡し

共通仮設物を撤去した後、入念な最終検査・確認を行い、お引渡しとなります。

01

共通仮設物撤去工事

02

竣工検査

03

お引渡し

Step14

アフターサービス

修繕後に発行される保証書の内容を確認しましょう。
私たちは、修繕後もアフターサービスを通じて居住者様とコミュニケーションを図り、お客さまの資産維持を末永くサポートしています。

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